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名古屋家庭裁判所 昭和42年(少)6066号 決定 1967年12月20日

少年 甲 昭和二三年一月七日生 職業 工員

本籍 ○○県○○市○○町××○○番地

住居 ○○○市○区○○町××××××××○○○○番地 ○○○○○製作所内

上記少年に対する強盗致傷等保護事件につき、次のとおり決定する。

主文

少年を名古屋保護観察所の保護観察に付する。

理由

一  (非行事実および罰条)

記録中に存する昭和四二年一一月九日付名古屋地方裁判所岡崎支部決定(以下移送決定という)に記載されている合計八件の犯罪事実および罰条と同一であるから、それを引用する。

二  (本件が当裁判所に係属するまでの経過)

(一)  まず、移送決定記載第五の犯罪事実である強姦致傷事件が、昭和四一年五月二一日、愛知県岡崎警察署より名古屋地方検察庁岡崎支部(以下単に地検支部という)に送致され、これが同月三〇日名古屋家庭裁判所岡崎支部(以下単に家裁支部という)昭和四一年(少)第六〇六号として係属したのであるが、同家裁支部はこれを、同年六月一八日、少年法第二〇条によって検察官送致をなし、地検支部を経て同月二七日、名古屋地方裁判所岡崎支部(以下単に地裁支部という)昭和四一年(わ)第二三七号事件として係属した。

(二)  次に、移送決定記載第二(恐喝)、第三、第六(いずれも強盗致傷)、第四、第八(いずれも窃盗)および第七(強盗、ただし当時の罪名は恐喝)の各事実が昭和四一年六月一四日地検支部に追送され、同年九月一四日家裁支部昭和四一年(少)第一〇七五号として係属した。

(三)  さらに、移送決定記載第一の窃盗事件が、昭和四一年一一月四日地検支部に、昭和四二年一月一三日家裁支部にそれぞれ送致され、同家裁支部昭和四二年(少)第三号として係属した。

(四)  ところが、前記(一)の強姦致傷事件を審理していた地裁支部はこれを昭和四二年四月六日少年法第五五条によって家裁支部に移送する旨の決定をなした。

(五)  家裁支部は上記移送決定を受けた強姦致傷事件を前記(二)および(三)の各事実と共に、昭和四二年七月一八日ふたたび少年法第二〇条によって検察官送致をなしたため、本件全部が同年八月一〇日地裁支部昭和四二年(わ)第二三五号事件として同庁に係属した。

(六)  上記事件を審理した地裁支部は、昭和四二年一一月九日ふたたび少年法第五五条によってこれを、今度は当庁に移送する旨の決定をなし、同月一一日本件が当裁判所に係属したものである。

三  (保護処分か刑事処分か)

前記移送決定は、そこに記載されている理由によって、本件は保護処分によるべきが相当である旨説示しているところ、右決定後に余罪が新たに発覚したとか、事実認定に相違が出てきたとか、あるいは情状が悪化した等特段の事情変更はないのであるし、本件の辿った前項記載のような経過(特に少年法第五五条による二度目の移送がなされた点)も考慮するならば、当家庭裁判所としては右地方裁判所の判断を援用するのが相当であり、それが少年法全体の趣旨にも合致するものと思料する。よって少年に対しては、ここで三たび刑事責任を追求するという方法はこれをとらず、適当な保護処分を選択して、それによって処分することとする。ただここで右の結論を補充する意味で次の二つの判断を示しておく。

(一)  本件は強盗致傷、強姦致傷を含む極めて重大な非行で、かつ件数も八件を数えるのであるが、記録によると昭和四一年五月一〇日、同月一四日および同月一六日の三夜に集中的に発生した非行であり、いずれも当時同じ職場に勤務していた成人の乙らに、飲食させてもらった末誘われて敢行したものであることを認めることができる。ただその犯行の態様を外形的に見るとき、少年の果した役割は決して小さいものではなく、ことに強姦致傷事件においてはむしろ主導的役割を果していた観さえ呈するのであるが、しかし、鑑別結果によって判明した少年の資質(魯鈍級の精神薄弱と思われること、精神的発達が未熟で未分化、小児的であること等)に照らして少年の果した役割をも一度検討してみるとき、そこにはかなり明確に、成人の首謀者に利用された形跡を読みとることができるのである。

(二)  一般に、少年が犯した非行であっても罪質が極めて重大、悪質であると認められる場合には、原則として検察官送致が相当であるというべきであろう。それが社会の正義感情に合致し、社会防衛の要求にもかなうと思料されるからである。しかし本件少年は、前記強姦致傷事件で昭和四一年五月二〇日逮捕され、翌二一日に勾留、同月三〇日より観護措置がとられ、前記のとおり同年六月一七日の検察官送致によってふたたび勾留が継続し、同年一二月一五日の保釈決定によって翌一六日釈放されるまで約七ヵ月にわたって身柄を拘束され、さらに二回にわたる公判を通じその刑事責任を強く追求されていることが記録上明らかである。以上の事実に徴すれば本件の場合、前記社会の正義感情あるいは社会防衛の要求がある程度充足されているとみることは十分可能であろうと信ずる。

四  (保護処分の選択)

収容保護か在宅保護かを決定する契機は、要するに、非行を犯した少年が将来ふたたび罪を犯すことのないように「性格の矯正及び環境の調整」を図るためには、収容して保護しなければならないかどうかという点に存する。そしてその判断は、非行時を基準としてではなく審判をする現時点においてなされなければならないことは、保護処分の性質上当然である(このことは非行時と審判時とがかけ離れている本件の場合、かなり重要な意味をもつことになるが、非行後逃走していたとか、その他少年の責に帰すべき事情によって審判が遅れたのではなく、先に本件が係属した家庭裁判所および地方裁判所において、何が少年に対する最も適切な処分であるかということを慎重に考慮した結果としてこうなったのであり、その間少年の環境調整がなされ、その性格の矯正にも見るべきものがあるとするならば、むしろ少年法の目指すところは半ば達せられているというべきである)。

上記の観点より、現時点における少年の生活環境、生活態度をみると、少年は昭和四一年一二月一六日釈放されて父および義母の許に引き取られ、同月二〇日より義母の兄Yの紹介によって、本件の内容および経過を全部明らかにしたうえ、同人の取引先である○○○市○区○○町所在、ネームプレートおよび印刷物製造業S製作所に住込みで勤務するようになったが、七ヶ月に及ぶ身柄拘束と、二回にわたる公判体験が身に泌みて、今日まで丸一年間極めて真面目な勤務振りを示しており、少年の前記資質上最も懸念されるところの同僚の問題についても可能な限りの調査をしてみたが、何ら憂慮すべき点は存しない。また少年の父は、かつて自からの不行跡から少年を放置し、養護施設において成育させたのであるが、その償いの意味でも今後は親としての責任を果したいとのべており、義母も夫の意志を理解して十分に協力する決意であり、義母の兄である前記Y氏、それに雇主のS氏夫妻も少年に対しては並々ならぬ関心を抱いている模様である。

以上の生活環境、生活態度より判断するならば、少くとも少年の現在の環境が継続する限り、現段階において少年を収容して保護する必要はないといわざるを得ない。ただ少年の前記資質的負因と、従来の劣悪だった生活環境、それに本件非行の重大性に鑑みるならば、なお専門家による指導、監督の必要は十分に認められるところである。

五  (結論)

よって少年に対しては在宅の保護処分すなわち保護観察処分に付することとし少年法第二四条第一項第一号、少年審判規則第三七条第一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 高橋金次郎)

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